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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)974号 判決

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は、控訴人に対し、金一五七万八二六一円及びこれに対する昭和四三年三月二二日から完済まで年六分の金員の支払をせよ。

(省略)

4 原審は、貨物損害の責任負担額につき被控訴人の港湾運送約款に規定がないものとし、同約款第一条第二項の「この約款に定めていない事項は、法令又は慣習(若しくは関係船会社の海上運送約款)による。」との規定を適用しているが、同約款第二一条第一項には「当社の責に帰すべき事由によつて貨物に損害を生じたときは、当社は、送状に記載された価額又は委託者が申告した価額を限度として損害実額を賠償する。」と記載されており、右によれば、送り状記載価額又は損害実額弁償を定めているというべきであるので、責任負担額が一梱包一〇〇ポンドに制限されるとする被控訴人の抗弁は、失当である。控訴人は送り状記載の価額と同額である損害実額を請求するものである。

二 被控訴代理人は、次のように述べた。

1 一1および2の控訴人主張事実はいずれも認める。

2 被控訴人は、本件紛失貨物を含むポリバリコン部品七五ケースを先ず岸壁に行先別に積み上げたが、全日本検数協会佐野豊臣担当の検数、日本海事検定協会小松勝利担当の検量により高雄向けポリバリコン七五個を誤りなく艀舟第一一義勇丸一番船尾に積み込み、同艀舟船頭高橋和男は、これと同舟中央部に積み込んだロンドン向け貨物二一六個、同じく船首に積み込んだハンブルグ向け貨物四一〇個と共に幌をかぶせ、一路本船に向い、なんら事故なく艀舟を本船につけ、あとは本船の指示に従つたのであるから、被控訴会社の運送はこの時点または遅くとも貨物が本船のデリツクにかけられた時点に終了したことになる。なお船積指図書(甲第一号証)に「一ケース不足詮議発見の際は引き渡しのこと」と記載されているが、右にいわゆる不足詮議というのは、不足しているかも知れないとの意味に慣用されているのであるから、紛失貨物が本船に積み込まれなかつた趣旨の記載ではない。

3 控訴人の当審における前記4の主張は、時機に後れたものであるので、却下されるべきである。

港湾運送約款第二一条第一項にいう当社の責に帰すべき事由によつて生じた損害とは、被控訴人の有責を前提とし、この有責とは、故意又は重過失があり、かつ、免責条項に該当しない場合をいう。従つて、右にいう被控訴人の責任とは、海上運送約款の責任限定条項を前提としたもので、その範囲内の実損害を賠償する規定であり、法令・慣習その他海上運送約款で規定されている最高限度の範囲内で実損害があればその部分だけは弁償するということであり、最高限を越えた場合においてもその全損害を弁償するということではない。

4 本件のように輸出品などの貨物につき貨物損害保険契約が締結されている場合には、荷主はその保険で十分損害をカバーし得るから、被控訴人は、保険に付せられた危険による損害につき、その賠償に応ずる必要がない。

三 証拠(省略)

理由

一  原判決理由一項ないし四項に記載されている原審の判断は、次に附加、補正するほか、当裁判所の判断と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決六枚目裏三行目「成立に争いない」から同六行目「各証言によれば、」までを次のように改める。

「本件船積指図書(甲第一号証)が摘要として『一ケース不足詮議発見の際は引渡のこと』と記載されて本船出港前に被控訴人に交付されたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によつて成立を認める甲第三号証によれば、昭和四二年三月三一日付全日本検数協会横浜支部の照会により本船陸揚地である高雄港で揚荷の際になされた本船船艙調査の際にもナンバー二ケース入りポリバリコン等組立部品は発見されなかつたことが認められ、以上の事実に原審証人永作房治の供述により成立を認める甲第一号証、原審証人長井健次の供述および弁論の全趣旨により成立を認める甲第六ないし第八号証、原審証人粟野優、同長井健次、原審および当審証人高橋和男の各供述をあわせると、」

2  原判決七枚目表二行目「一五七万九、八八四円」を「一五七万八、二六一円(円未満切捨)」と訂正する。(控訴人は、損害を一五七万九、八八四円と主張するが、計算の誤りである。)

3  原判決七枚目裏一〇行目「右認定に反する」から原判決八枚目表一行目までを次のように改める。

「原審証人清末和彦の供述中、被控訴人が事故防止のシステムを作つて事故当時十分注意したとの部分は抽象的であつて右認定の妨げとはならない。もつとも、原審および当審における証人高橋和男の供述には、同人は、第一一義勇丸で当時新山下倉庫附近の岸壁から本船まで、荷物にシートを掛け、ロープで結んだ上から屋根をはめこんで運び、右艀が岸壁から本船に向う途中監視していたが、荷物が海中に落ちたのを見なかつたというのである。しかし、右供述によれば、同証人は当日急に乗船することとなつたので、艀に荷物を積むときの状況も見ておらず、荷物の数量も当つていなかつたことが明らかであるから、右供述によつて前認定を動かすことはできず、成立に争いのない乙第四号証、当審証人佐野豊臣の供述によつてもこれを左右するに足らず(成立に争いのない甲第五号証参照)、他にこれを動かすだけの証拠はない。なお、被控訴人は、本船側が船荷証券を発行したから、責任は本船側にあつて被控訴人にないと主張し、原審証人今井幸三郎の第一回供述によつて成立を認める乙第二号証の一、二によれば、本件事故後本船側代理店から無留保の船荷証券の発行されたことが認められる。しかし、原審証人永作房治の供述およびこれによつて原本の存在および成立を認める甲第一二号証によれば、右のように無留保の船荷証券が発行されたのは、安宅産業株式会社から本船側に対し、これによつて本船側の蒙ることあるべき本件貨物についての費用、損害につき同会社において本船側を無責とすることを保証する旨約し、その旨の保証状を差し入れたことによるものであることが認められるので、右船荷証券がかようないきさつにより無留保で発行されたことは、被控訴人と安宅産業株式会社ないしミツミ電機株式会社との間の権利関係になんらの消長を及ぼすものではない。それ故被控訴人の右の主張もまた採用の限りではない。」

二  被控訴人は、前記港湾運送約款第一条第二項及び本船ベンロイヤル号の船舶所有者であるベンライステマー株式会社の海上運送約款の規定により被控訴人の負担すべき責任は一〇〇ポンドに限定されると主張し、控訴人は、港湾運送約款第二一条第一項により損害実額を賠償する義務があると主張し、被控訴人は、控訴人の右主張は、時機に後れたものであるとし、却下を求めた。

控訴人の右主張は、差戻前の当審に提出された昭和四五年八月二五日付準備書面に記載されており、差戻後の第一回口頭弁論期日になされたもので、これにより訴訟の完結が遅延するものではないので、控訴人の右主張を時機に遅れたとし、却下を求める被控訴人の申立は理由がない。

前記乙第一号証によると、被控訴人の港湾運送約款には、その第一条に「当社の一般港湾運送事業に関する営業は、この約款の定めるところによる。この約款に定めていない事項は、法令又は慣習(若しくは関係船会社の海上運送約款)による。」と定められているが、第二一条第一項には「当社の責に帰すべき事由によつて貨物に損害を生じたときは、当社は、送状に記載された価額又は委託者が申告した価額を限度として損害実額を賠償する。」と定められており、本件損害が被控訴人の責に帰すべき事由によつて生じたものであることは前認定のとおりであるので、被控訴人は、ミツミ電機株式会社に対し、右第二一条第一項により、送状記載の価額の範囲内において、前記損害実額を賠償する義務があるといわなければならないところ、本件において他に証拠がないので右送状記載価額が右損害実額であると推定するのが相当である。

被控訴人は、貨物損害保険契約が締結されている場合には、荷主は保険で損害をカバーし得るから、被控訴人は、その賠償に応ずる必要がないというが、本件は、ミツミ電機株式会社の損害賠償請求権について代位した控訴人の請求であるので、右の主張は、失当である。

三  以上認定のように、被控訴人は、ミツミ電機株式会社に対し、一五七万八二六一円を賠償義務があるので、控訴人の本訴請求は、ミツミ電機株式会社に支払つた保険金一五七万九八八四円のうち一五七万八二六一円及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四三年三月二二日から完済まで商法所定年六分の遅延損害金の支払を求める限度において認容し、その余の請求を棄却すべきである。

よつて、右と異る原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第九二条但し書を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

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